人が亡くなったらお墓を建てなければならないという法律は世界中どこにもありません。 にもかかわらず、人類は太古の時代からお墓を作り続けてきました。なぜでしょうか。今から7万年前、ネアンデルタール人が死者に花を手向けていたことが考古学で明らかとなっています。これがお墓作りの原点ではないでしょうか。 従ってお墓は慣習や習慣で建てるものではなく、人類の証とも言える死者への哀悼、追憶の心、仏教でいうところの供養の心によって建てる祈りの造形なのです。
こういう形で、こういう色の石で、こういう大きさの墓石がよいお墓だ…等というものはありません。 お墓には、「死者を供養し祀る」という意義と「この世に残された人の心の拠り所」としての意義があります。 従って死者を供養するのにふさわしいたたずまいがあり、死者と生者の語らいの場所、親を想い自分たちの生活の歴史を子供達に伝えて行く場所としてふさわしいお墓なら、いずれもよいお墓と言えるのではないでしょうか。
石材店の仕事は墓石を建てることだと思われていませんか? それは大きな間違いです。石材店のより重要な仕事は「墓守」です。なぜなら、お墓は100年の買い物です。代々受け継がれていくものです。「売りました、買いました。」で済む他の商品とは、本質的に異なります。 厳に気をつけて頂きたいのは、にわかづくりの墓石販売業者やブローカーのような業者です。建立後何年かたって「新仏の戒名彫りを頼もうと思ったら、お店がなかった」「墓石に問題が生じ電話したら不通だった」といった苦情が全国の消費者センターに寄せられていますが、ほとんどの場合がこのケースです。 従って建てた墓石を保証し、後々まで面倒を見てくれる、信頼できる石材店を選ぶことが何よりも肝要です。
お墓は100年の買い物です。購入後のメンテナンスやサービス、商品に対する責任を明示しているか。格安を売り物にしているお店ではなく、お墓の価値や心の満足を重視しているお店か。地元の人の評判はどうかといった点をチェックされたらよいと思います。 また、そのお店が建てた他家のお墓を見せてもらい、出来栄えを確認するのもよいと思います。
チラシや新聞広告を見て石材店に電話し、墓地で落ち合い自宅で商談、契約したというお話を聞きますが、これは危険です。 もしかしたら事務所を一部屋借りて、どこからか墓石を調達してきて建立するブローカーかもしれません。何度も言いますが 墓石店との関係は、お墓を建てたら終わり、買ったら終わりでは決してないのです。後々までお墓守をしてもらわなければなりません。 契約前に一度必ず石材店へ足を運び、 お店を確認すると共に、店主の人柄や後々までアフターサービスをしてもらえるお店かどうか確認してください。
墓石に機能性は全くありません。得られるのは心の満足です。格安墓石、超特売墓石を購入されて心の満足が得られるでしょうか。むろん高い墓石がよい、安い墓石は悪い、ということではありません。 亡くなった方を供養し偲ぶお墓をお建てになるなら、建立された後すがすがしい気持ちになれるお墓でなければなりません。ご自分の死後の住まいとして生前に建立されるお墓であるなら、自分らしい想い入れを込めたお墓を作られるべきでしょう。従って目先の価格より、心の満足を重視されたお墓作りをお奨めします。この場合、問題なのは、「墓石の価値判断ができない」ということでしょう。 地元に根づいた評判のよい石材店なら安心です。いい加減な仕事、法外な価格で建立すれば評判を落とし、仕事がこなくなるからです。なぜなら建てた墓石は、お店の信用を背負ってずっとそこに建立されているのですから。 その点、建立後どこかへ行ってしまうブローカーやにわかづくりの業者は怖いですね。
現在墓石に使用されている石材のほとんどが御影石(花崗岩)で、その8割以上が輸入材です。そしてその種類は何百種にも及びます。同じ御影石でも硬度がそれぞれ異なり、一般的には硬い石ほど光沢を出すのに手間がかかりますが、一端、磨き上がるとその石の艶は長持ちします。 硬度の低い石はその逆です。また、吸った水をはき出しにくい石があり、そのしみ込んだ水が寒冷地などでは凍って割れることがありますので、避けたほうがよいでしょう。 また、鉄分を多く含んだ石がありますが、水と融合して錆が出る可能性が高いので避けたほうがよいでしょう。では、硬度が最も高く、最も水を吸わない石が高い石なのかというと、必ずしもそうではありません。石は天然素材のため、人気があって産出量が少ない石ほど希少価値がついて高額になります。従って石質が悪いから安い、良いから高いとは、いちがいに言えないということです。 これらの石の特質は、一般の方にはわかりません。そこにブローカーやにわか石材店が入り込むチャンスがあり、特売品が出回るわけです。 くれぐれも信頼できる石材店で購入されることをお奨めします。
一般的には関東以西は白系統、以北は黒系統で多く建てられていますが、それは昔地元で産出された石の色に起因しています。黒石はよくないなどという話を聞くことがありますが、仏教の基本色は赤青黄白黒の五色です。この色どれ一つ欠けても極楽浄土はできないと阿弥陀経にも書かれています。 従って黒はいけない、赤はいけない等という根拠はまったくありません。ちなみに黒系統の石がたくさん出た東北地方では、建立されている墓石の65%以上が黒御影の墓石です。 地域によっては99%が黒御影石です。関西方面は全くその逆です。
現在建立されている墓石は、大きく分けると三段型の和型とオルガン型の洋型に分類されます。三段型の墓石は、江戸時代中期頃より一般庶民が建てるようになったお墓の形です。その原型は五輪塔とも言われていますし、位牌を形どったものとも言われています。 当初は仏塔として人が亡くなると、一人一基ずつ建立されましたが、家制度の導入と共に家墓、代々墓となり、仏塔としてのお墓は形骸化し、その形だけが今日まで継承されています。洋型墓石は仏塔としてのお墓が完全に形骸化した昭和 年初頭に出現し、あっという間に全国に普及しました。そして、今日では、家制度が崩壊し核家族化、少子化が進みお墓も家族墓、夫婦墓、両家墓、個人墓、永代供養墓など、急速に多様化し、墓石の形も人によって、あるいは求めるお墓によって様々になりました。 特に近年、自分好みの自分らしいお墓作りをされる方が急増し、洋型墓石はデザインを競う時代に入り、素敵なお墓がたくさん目につくようになってきました。 このほか、一般的な墓石として五輪塔があります。平安時代中期頃できた仏の姿を表し、森羅万象をかたどった伝統的な供養塔です。お釈迦様の遺骨が納められた塔を原形として、古来インドの地水火風空の五大(要素)思想に基づいて作られたもので、報恩供養を願って建立される代表的な供養塔です。 こういう形はいけないとか、宗教を無視した新型墓石は、いけないなどと言われる先生がおられるようですが、お墓の原点はネアンデルタール人が花を手向けたその心です。形ではありません。 従ってどういう形の墓石で建てられるかは、作られる方の自由です。それにお釈迦様はお墓のことは何も話されていません。それは人の心が決めることと悟られていたからに違いありません。 それにもし宗旨、宗派に即して建てなければならないなら、三段型墓石が誕生した江戸時代にさかのぼって、当初意義づけられた仏塔として一人一基ずつ建てなければなりません。そんなことをしたら、日本中お墓だらけになってしまうのではないでしょうか。
大きいお墓がよい、小さいお墓は悪いというものでは全くありません。大切なのは、死者への供養の心を込めて作られたか否かです。 例え小さくとも、心のこもったお墓であれば、気に入った石種で、ご予算に応じてお作りになられたら良いと思います。
墓石に文字を刻むようになったのは、平安時代の終わり頃のようです。当初は経文や梵字を彫りましたが、室町時代に入って仏の種子、仏像、名号、題目などが彫られるようになり、仏塔としての性格が顕著になりました。江戸時代にはいって、庶民が建立するようになった三段型の墓石は、当初、仏塔として亡くなられた方のために一人一基ずつ建立され、棹石の正面頭部に宗派によって仏を表す「円」大日如来を表す梵字の「ア(ア)」「妙法」などを入れ、その下に「南無阿弥陀仏」「妙法蓮華経」「南無釈迦牟尼仏」などの題目を彫り、側面に仏弟子となった故人の戒名、法名を記しました。 明治時代に入ると仏を表す円や名号、題目が欠落し、家紋や個人俗名が刻まれ、仏教的な意義付けが、次第に薄れました。大正から昭和にかけて民法に家制度が導入されると、仏塔として個人墓だった墓石は家墓、先祖代々墓となり、仏弟子の証として刻まれた戒名も墓誌(法名碑)に記されるようになり、仏塔としての墓石は完全に形骸化し、墓石に刻む文字への制約もなくなりました。 そして、家制度が崩壊し核家族化、少子化が進んでいる今日、お墓も急速に多様化し、それに伴って墓石に刻まれる文字も想い想いに好きな文字や言葉、絵柄が刻まれるようになりました。 そして、家制度が崩壊し核家族化、少子化が進んでいる今日、お墓も家族墓、夫婦墓、両家墓、個人墓、永代供養墓など、急速に多様化し、それに伴って墓石に刻まれる文字も思い思いに好きな文字や言葉が刻まれるようになりました。
特別な決まり(法律)はありません。大切なのは供養の心です。思い立ったが吉日でよいと思います。一般的には、四十九日、百ヶ日、月忌、一周忌、三回忌などの法要を営むときに納骨されることが多いようです。
お墓を建てることは仏事です。仏教では生前に仏事をすることを「逆修」といって、大変功徳の高い善行と説いています。事実「灌頂経」「地蔵本願経」というお経の中でお釈迦様は「生前に死後の仏事を修めておくと、その幸せは無量で計り知れない」と説いておられます。 中国でも寿稜は長寿を願うめでたい墓として秦の始皇帝をはじめ歴代の皇帝が作っています。日本では聖徳太子が作られています。 従って生前墓がいけないという根拠はなさそうですね。
お墓は当初仏塔として建てられたものです。そうだとすると、仏教では六方拝といって、東西南北上下六方をいずれも尊び、吉凶の別は問わないとしています。 また、仏は八方世界をあまねく照らすという言葉もあります。その仏様が、あっち向きはだめ、こっち向きはだめと言われるでしょうか。供養するのにふさわしい場所であれば、方角は関係ありませんね。 墓地が北向きでどうしても気になるというのであれば、五輪塔をお建てになられたらいかがでしょうか。塔は四方正面ですからよろしいと思います。
江戸時代から継承されてきた規格型三段墓石に対し、現代人にマッチした祈りの造形として作られる新しい形の墓石のことを総称してニューデザイン墓石といい、近年急速に普及しています。 欧米では、昔からひとつひとつ形の異なるお墓を建ててきましたが、日本ではどんなに個性的な生き方をされた方でも、亡くなれば、画一的な没個性の規格型のお墓に祀られてきました。 その背景にあったものは、仏塔としてのお墓があったからですが、その意義が薄れ形骸化したことに加え、死者の供養塔としてのお墓、家族の死後の住まいとしてのお墓、この世に生きた証としてのお墓といったように「求めるお墓が多様化した」ことによって、想いを込めた個性的なお墓作りがなされる時代になったようです。